プロジェクト ジャーニー レポート
はじめに
etcdは、分散システム用の信頼性の高いキー バリュー ストアであり、単純なウェブ アプリケーションから大規模なソフトウェア プラットフォームまで、あらゆる複雑さのアプリケーションが重要なデータを保存およびアクセスする方法を提供します。
etcdは、2018年にRed Hatが買収したCoreOSで開発されたもので、リーダー ノードでも一貫性の保証とマシン障害への耐性をユーザーに提供します。アプリケーションはetcdからデータを読み取ったり、etcdにデータを書き込んだりすることができます。また、特定のキーやディレクトリの変更を監視し、自動的に反応して、アプリケーションがそれに応じて再構成できるようにします。etcdは、CNCFの最も勢いのあるopen source velocityプロジェクトであるKubernetesの主要なデータストアです。
etcdは2018年12月にCNCFに参加し、2020年11月に卒業するまで、約2年間インキュベーションに残りました。CNCFは2021年3月にetcdプロジェクトの最初のジャーニー レポートを公開しました。そして、3年以上にわたる目覚ましいプロジェクトの成長とコミュニティの拡大を経て、2024年に更新されたetcdプロジェクトの2回目のジャーニー レポートを発表できることを誇らしく思います。
このプロジェクトジャーニー レポートでは、CNCFの下でetcdが経験した驚くべき成長の道のりをご案内します。全てのデータに特定の入力要因を関連付けることはできませんが、成功した決定やアクションを調査し、相関関係を文書化し、探求することはできます。このレポートは、CNCFが発行するプロジェクト ジャーニー レポート シリーズの一部です。
注:これらの統計は、CNCFがCNCFプロジェクト コミュニティと共同で構築したDevStatsツールで収集されたものです。「コントリビューター」とは、レビュー、コメント、コミット、PRまたはイシューの作成を行った人を指します。
etcdは、Fidelity Investments、Ant Financial、Huaweiなど、金融サービス、テクノロジー、通信、AIなどのリーダーを含む世界中の組織に採用されています。さらに、Kubernetesクラスターはetcdを主要なデータストアとして使用しているため、 etcdを利用しているエンド ユーザーには、Google、Alibaba Cloud、Amazon、Booking.com、Spotify、OpenAI、SquareSpace、Visa、Salesforce、Uberなどが含まれます。
「etcdが寄贈されたとき、それはすでに何年もKubernetesのストレージ システムとして使われていました。Kubernetesはetcdに依存しているため、etcdに問題が発生すると、Kubernetesやそのエコシステムに深刻かつ長期的な影響が及びます。振り返ってみると、”CNCFによるetcdの採用”はもっと早くに実現すべきだったのでしょうか?もちろんそうです。しかし、プロジェクトは健全な状態にあり、CNCFへの寄贈はそこへ向かうための重要なステップでした。」
Joe Bertz
Google Technical Staff Member and Emeritus etcd Maintainer
コントリビューターの多様性
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etcdは、主要なベンダーとエンド ユーザーが貢献するコミュニティ間の健全な連携とビジョンの共有により、普及と採用が加速しています。CoreOSをルーツとするこのプロジェクトは、870を超える組織や多数の個人による重要なコントリビューションを取り入れながら成長し、ユーザー主導のイノベーションを通じて全体像を形作ってきました。
コントリビューターの多様性も同様に拡大しています。開発元のCoreOSに加え、Google、Red Hat、VMware(Broadcom社)、Amazon、Alibaba、IBM、Metaといった世界最大規模のテクノロジー企業、そしてIndeedやCockroach Labsといった急成長中の中規模企業もコントリビューターとして参加しています。また、HeptioやWeaveworksといった小規模な企業や革新的なスタートアップ企業も多数参加しています。コントリビューションを行っている組織は、ベンダーとエンドユーザーの間でうまく分散されており、ユーザー自身が急成長する大成功を収めたプロジェクトを育成し、維持できることを示しています。
CoreOSはプロジェクト開始以来、最も多くのコントリビューションを行っており、その後も多くの企業がこれに加わってきました。2024年8月の報告日現在、CoreOSは依然として36%のコントリビューションでトップを維持しており、Googleは14%で2位につけています。etcdがCNCFに参加して以来、コントリビューションを行う企業の総数は75%増加し、499社から873社に増加しました。この成長は、同期間における個人コントリビューターの増加、2,328人から5,667人へ、143%増と一致しています。
etcdへの全期間のコントリビューションは、CNCFに参加した際の74,327から127%増の168,800を超えました。CoreOSのコントリビューションの割合は、2018年から2020年に同社が運営を停止するまで減少しましたが、全体的なコントリビューションでは依然としてトップです。現在、Google、Broadcom傘下のVMware、Red Hat、Amazonが最も活発にコントリビューションを行っている企業です。これらの数字は、初期からの参加者が引き続き貢献し、他の組織や個人が管理を分担し、コミュニティを成長させるために参加しているという健全なダイナミクスを示しています。
コントリビューターの多様性やベンダーとエンドユーザーのインプットの健全なバランスが、成長を促進し続け、ユーザーが自信を持って分散型キー バリュー ストアとしてetcdを選ぶことを可能にしています。
企業別etcdコントリビューションの増加累計 2014-01-01 – 2024-08-01
企業別etcdのコントリビューション パーセント別内訳 2014-01-01 – 2024-08-01
etcdにコントリビュートする企業の増加累計 2014-01-01 – 2024-08-01
コントリビューターの増加累計 2014-01-01 – 2024-08-01
コントリビューターの
地域的な多様性
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最もコントリビュートしている国
国別etcdコントリビューションのパーセンテージ 2014-01-01 – 2024-08-01
開発の変化
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変化の傾向を評価することで、CNCF、Linux Foundation、その他の関係者は、開発者やエンド ユーザーに影響を与えるトレンドやテクノロジーを追跡することができます。さまざまなプロジェクトの変化を観察することで、成長しているプロジェクト、成熟しているプロジェクト、大規模なコミュニティを育成しているプロジェクトを理解することができます。この情報は、意思決定や戦略の指針として活用することができます。
CNCFに参加してからの変化に関するメトリクスに注目すると、etcdは今後も力強いペースで成長を続ける見通しです。
(我々が定義する)開発者の変化を追跡する一つの方法として、シンプルな数式を使用します。コミット + PR + イシュー + Authorの数です。また、etcdの過去の履歴を通じて、累積的なコントリビューターの数も見ています。両方の指標は、etcdにおける複数のベンダーとエンド ユーザーの組み合わせが、健全な草の根的なサポートを促進していることを示しています。
月ごとのetcdの変化 2014-01-01 – 2024-08-01
etcdのプル リクエスト、コード コミット、イシュー、Authorの増加 2014-01-01 – 2024-08-01
教育、イベント
& スポンサーシップ
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プロジェクトのコミュニティが教育、イベント、スポンサーシップに積極的に関わるほど、そのプロジェクトは健全性を増す傾向にあります。
CNCFの北米、アジア、ヨーロッパにおけるフラッグシップ イベントであるKubeCon + CloudNativeConでは、2018年にCNCFに加入して以来、etcdにスポット ライトが当てられてきました。全体として、etcdはこれらのイベントで38の基調講演、講演、セッション、ミーティング、ワークショップのテーマとなっており、毎年数万人が参加しています。
etcdは毎週オンラインでミーティングを開催しており、一般的なコミュニティ ミーティングとトリアージ ミーティングを交互に行っています。コミュニティ ミーティングでは、メンテナーとエンド ユーザーがプロジェクトの最新情報を話し合ったり、コミュニティからのフィードバックを聞いたり、新しい機能の開発に必要なエンド ユーザーの要件やユース ケースを収集したりする機会が設けられます。トリアージ ミーティングでは、コントリビューターを集めて、未処理のPRや問題に対処します。
etcdは、隔週で堅牢性テストを実施し、メンバーが共同でetcdの負荷のかかった状況下での正確性を検証し、知識を共有し、厳格なテスト文化を醸成し、新しいテストのレビュアーや承認者を指導することを可能にしています。
etcdは最近、Kubernetesのアプリケーションをサポートするためのetcdオペレーターを計画、開発するための新しいワーキング グループを結成しました。 etcdオペレーター ワーキング グループは隔週でミーティングを開催しており、Kubernetes Slack ワーク スペースに専用のチャンネルが用意されています。
プロジェクトのソフトウェアの使用方法に関するスキル習得の需要に応える形で、etcdのチュートリアルやコースが登場しています。例えば、DevOpsSchoolでは、オンライン、講義形式、企業研修の受講者向けにetcdのトレーニングおよび認定プログラムを提供しています。また、トレーニングおよびコンサルティング企業であるNobleProgでは、「etcdによる分散型システム ストレージ」と題したコースをオンラインおよびオンサイトで提供しています。
2018年、Mechanical Industry Pressは、中国市場向けにetcdに関する初の単行本を出版しました。タイトルは『クラウドネイティブ分散ストレージの根幹:etcdの詳細分析』です。Huawei Cloud Container Serviceチームが制作し、Du Junが執筆したこの本は、現在最も広く使用されている分散型キー バリュー型ストレージ システムであるetcdを詳細に分析しています。
マーケティングの成長
& プログラム
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2018年にetcdがCNCFに参加して以来、私たちはプロジェクトの認知度を高め、コミュニティを拡大するために、2つの基本原則に基づいて精力的に取り組んできました。
- 真の問題を解決し、オーディエンスに対して誠実であること。
- ベンダーとエンド ユーザーからのすべての意見に耳を傾け、バランスを維持し、興奮を生み出すこと。
CNCFはetcdを受け入れて以来、プロジェクトに関連するニュースを取り上げ、ウェブ サイト上のケース スタディで紹介してきました。また、ライブおよびオンデマンドのウェビナーを含む12のetcd関連のビデオ プログラムをウェブ サイト上で公開しており、これまでに14,000回以上視聴されています。
CNCFが共同管理するetcd.ioのウェブ サイトは、2019年初頭から急速に成長しています。Google Analytics 4(GA4)によると、etcd.ioの2024年7月のページ ビューは144,000件でした。
Google Analytics 4 (GA4) 144,000件のetcd.ioの月間ページ ビュー
注:Googleのプライバシー設定は、アナリティクス レポートに影響を与える可能性があります。プライバシー優先のアナリティクス プラットフォームであるPlausibleを使用したCNCF独自の検証では、Googleアナリティクスが報告したよりも2倍多いトラフィックが当社のウェブ サイトにあったことが測定されました。GA4から上記のetcd.ioのページ ビュー統計を参照する際には、この点を念頭に置いておく必要があります。
etcdがCNCFに参加した際、そのTwitterアカウントのフォロワー数は100人未満でした。現在では4,450人以上のフォロワーを誇り、当時から45倍以上に増加しています。
このプロジェクトには、活発なGoogleグループ、YouTubeチャンネル、Kubernetes Slackワーク スペース内の専用チャンネル(SIG-etcd)があり、4,700人以上のメンバーが参加しています。
「Kubernetesプロジェクトにおける”SIG-etcd“の結成は、etcdがCNCFに寄贈されていなければ実現しなかったでしょう。寄贈とSIG-etcdの結成の両方が、才能あるコントリビューターを引き付け、プロジェクトの持続に役立ちました。」
Joe Betz
Google Technical Staff Member and Emeritus etcd Maintainer
CNCFはstore.cncf.ioでetcdの商品を販売しています。
プロジェクトの
ドキュメント化
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新規ユーザーを教育し、既存ユーザーの問題解決を支援する充実したドキュメントがなければ成り立ちません。ドキュメントの変更が健全な頻度で行われることは、プロジェクトのコミュニティが健全であることの強力な指標となります。
これまでに、さまざまな背景や動機を持つ350人以上のコントリビューターが、etcdのドキュメントを追加し、洗練させてきました。
注:Harborのドキュメントは.mdファイルで作成されています。CNCFはDevStats ツールを使用して、GitHubのHarborリポジトリ内のすべての関連.mdファイルの統計情報を自動的に収集し、カウントしています。
etcdプロジェクトのドキュメント化への参加数の増加 2014-01-01 – 2024-08-01
etcdプロジェクトのドキュメント化コミット数の増加累計 2014-01-01 – 2024-08-01
「CNCFはetcdのテクニカル ドキュメントの分析を委託し、その結果、ドキュメント化の改善とよりユーザー フレンドリーなドキュメント作成に向けた推奨事項が導き出されました。また、CNCFのドキュメント化の専門家はetcdウェブ サイトへのガイダンスと直接的なコントリビューションを提供しています。」
Wenjia Zhang
Staff Engineering Manager at GitHub
おわりに
7/7
CNCFは、最先端のソフトウェア開発とデプロイの実践方法を民主化することで、誰もがテクノロジーを利用できるようにし、ベンダー ニュートラルなオープンソース プロジェクトのエコシステムを育成し、維持することに尽力しています。
本レポートが、etcdやそのチーム、そしてプロジェクトを活用し形成している多様な個人や組織から成るコミュニティをCNCFがどのように育み、支えているかについてを示す一助となれば幸いです。
「長年にわたり、私たちはetcdプロジェクトの信頼性と一貫性から恩恵を受けてきました。Kubernetesのコントロール プレーンにetcdを導入したことで、予測可能なパフォーマンスという恩恵を受けました。現在、進行中の開発とコミュニティのサポートに後押しされ、他のインフラストラクチャ アプリケーションにおけるその潜在的な可能性を模索しています。CNCFの一員であることで、このオープン ソース ソリューションが他のクラウド ネイティブ テクノロジーと調和し続けることが確実になります。」
Maxime Visonneau
Engineering Manager at DataDog and etcd end user
翻訳協力:松本 央 (Hiroshi Matsumoto)